今回の記事ではKelly Clarkson(ケリー・クラークソン)の
- Because Of You(ビコーズ・オブ・ユー)
の歌詞和訳をしたいと思います。
一見すると、失恋を悲しむラブソングのように聞こえる曲ですが
- 6歳の時に両親が離婚
- その後に母親が自殺
という複雑な家庭環境をもつクラークソンが、16歳の時に思いを書き綴った歌詞になります。
とても悲しく切ないバラードソングです。
Kelly Clarkson(ケリー・クラークソン)って?
ケリー・クラークソン(Kelly Clarkson)は、1982年生まれのアメリカ合衆国のシンガー。
2002年に人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』の第1シーズンに出場し、総勢1万人の中から優勝を飾ったのがきっかけで人気が爆発する。
2003年のデビュー・アルバム『Thankful』は、全米アルバムチャート初登場1位を獲得。
2004年のセカンド・アルバム『Breakaway』は、全米で600万枚近いセールスを記録。
2006年に第48回グラミー賞で2冠を達成した。
Because Of You(ビコーズ・オブ・ユー)について
「Because Of You」はケリー・クラークソンが2004年に発表したセカンドアルバム「Breakaway」に収録されている一曲。
2005年にシングル・リリースされた。
Because Of You(ビコーズ・オブ・ユー)の歌詞
I will not make
The same mistakes that you did
I will not let myself
Cause my heart so much misery
I will not break
The way you did, you fell so hard
I’ve learned the hard way
To never let it get that farBecause of you
I never stray too far from the sidewalk
Because of you
I learned to play on the safe side so I don’t get hurt
Because of you
I find it hard to trust not only me, but everyone around me
Because of you
I am afraidI lose my way
And it’s not too long before you point it out
I cannot cry
Because I know that’s weakness in your eyes
I’m forced to fake
A smile, a laugh everyday of my life
My heart can’t possibly break
When it wasn’t even whole to start withBecause of you
I never stray too far from the sidewalk
Because of you
I learned to play on the safe side so I don’t get hurt
Because of you
I find it hard to trust not only me, but everyone around me
Because of you
I am afraidI watched you die
I heard you cry every night in your sleep
I was so young
You should have known
Better than to lean on me
You never thought of anyone else
You just saw your pain
And now I cry in the middle of the night
For the same damn thingBecause of you
I never stray too far from the sidewalk
Because of you
I learned to play on the safe side so I don’t get hurt
Because of you
I try my hardest just to forget everything
Because of you
I don’t know how to let anyone else in
Because of you
I’m ashamed of my life
Because it’s empty
Because of you
I am afraidBecause of you
Because of you
Because Of You(ビコーズ・オブ・ユー)歌詞和訳
絶対にしない あなたと同じ間違いは
自分に許さない
だって心があまりに苦しいから
あなたと違って私は逃げ出したりしない
とても苦しかったのよね
ずっと苦労して学んできたわ
注意して踏みとどまるよう
*
あなたがいたから
迷わなかった 正しい道を外れすぎずに
あなたのおかげで
学んだわ 慎重に振舞うよう
だから私は傷ついてない
でも あなたのせいで
信じることが難しくなった
自分だけじゃない 周りの人たちすべてを
あなたのせいで
私は怖いの
*
道に迷うと
すぐにあなたが指摘してくれるわ
泣くことはできない
だって知ってるの それこそあなたの瞳に宿る弱さだと
無理やり笑顔のフリをして
笑って 私の人生は毎日が笑顔
私の心はどうしたって壊れない
無傷ですらなかったもの そもそも最初から
*
サビ繰り返し
*
あなたが死ぬほど苦しむのを見ていた
泣き声が聞こえた
寝るときには毎晩
私はとても幼かったから
あなたは子供を頼らないくらいの分別はもつべきだった
決して誰のことも考えてなかったわね
ただ自分の痛みばかり見てた
そして今 私は泣いてる 真夜中に
同じようなくだらないことで
*
あなたがいたから
迷わなかったわ 遠く道を外れずに
あなたのおかげで
学んだわ 慎重に振舞うようになったの
あなたが理由で
何よりも必死だった すべてを忘れようって
あなたのせいよ
わからない どうやって他の誰かを受け入れたらいいの?
あなたのせいで
自分の人生が恥ずかしい だって空っぽなの
あなたのせいで
怯えているの
あなた達のせいで
あなた達のおかげで
和訳チェックポイント(単語の意味・文法など)
以下、和訳のチェックポイントをまとめておく。
I will not make
絶対にしない
The same mistakes that you did
あなたと同じ間違いは
I will not let myself
自分に許さない
Cause my heart so much misery
だって心があまりに苦しいから
単語は
- mistake「過ち」
- let「許す、許可する」
- misery「悲惨、苦悩、不幸」
である。
両親の過ちを見て育ったからこそ、伴う苦しみを誰よりもよく知っている。
なので、自分は絶対に同じ過ちはしないと心に決めている。
I will not break
あなたと違って逃げ出したりしない
The way you did, you fell so hard
とても苦しかったのよね
I’ve learned the hard way
ずっと苦労して学んできたわ
To never let it get that far
注意して踏みとどまるよう
単語は
- break a way「逃げる」
- learn the hard way「懲りる、苦労して学ぶ」
- that far「そんなに遠く」
「To never let it get that far」に関しては、こちらの質問を参考にしつつ訳した。
自分の両親の苦しみに寄り添いつつ、自分自身は今までずっと彼らを通して、過ちを犯さないよう注意深く最悪の事態を回避するよう学んできたということ。
サビは
Because of you
あなたがいたから
I never stray too far from the sidewalk
迷わなかった 正しい道を外れすぎずに
Because of you
あなたのおかげで
I learned to play on the safe side so I don’t get hurt
学んだわ 慎重に振舞うよう
だから私は傷ついてない
単語は
- because of「~が原因で」
- stray「はぐれる、彷徨う」
- sidewalk「歩道」
- on the safe side「安全を期して」
- play「遊ぶ、振舞う」
である。
「歩道を離れないように」「安全な場所で遊ぶように」というのは親から子への教えである。
これは単に、歩道の歩き方を語るだけでなく
- 注意深くあれ
という両親から教訓ともとれる。
ただ(同じ過ちは犯さないといった)前文の流れから、この教訓は
- 両親の姿を反面教師
にして学んだという悲しい皮肉が込められている。
なので続くフレーズは
Because of you
でも あなたのせいで
I find it hard to trust not only me, but everyone around me
信じることが難しくなった
自分だけじゃない 周りの人たちすべてを
Because of you
あなたのせいで
I am afraid
私は怖いの
と訳した。
単語は
- find O C「OはCだと気づく」
- it (= to trust…)形式目的語
として考える。
ポイントは、曲名にも含まれている「because of」が
- ~のおかげで(+)
- ~のせいで(ー)
という2つの対照的な意味を担っているという点だろう。
サビ全体を通すと、絶対に同じになりたくないと考えている親がいるからこそ
- 慎重な人間
になれた。
だが、自分の両親がトラウマとなり
- 人を信頼できない
という怯えを抱えている。
クラークソンが両親に抱くアンビバレントな感情を非常にうまく表している。
I lose my way
道に迷うと
And it’s not too long before you point it out
すぐにあなたが指摘してくれるわ
単語は
- lose one’s way「道に迷う」
- it’s not long before「すぐに~になる」
- point out「(間違いを)指摘する」
である。
自分が何か過ちを犯したり、安全な道を外れそうになれば(反面教師である)両親の姿が過り、それを指摘するということ。
(同じようになりたくない親の姿が自分のストッパーになるような心理状況)
だからこそ
I cannot cry
泣くことはできない
Because I know that’s weakness in your eyes
だって知ってるの それこそあなたの瞳に宿る弱さだと
I’m forced to fake
無理やり笑顔のフリをして
A smile, a laugh everyday of my life
笑って 私の人生は毎日が笑顔
単語は
- weakness「弱さ」
- be forced to「~せざるを得ない」
- fake「偽る、ふりをする」
- laugh「笑い」
トラウマである親の姿が常に自分を戒めるからこそ
- 泣く
といった自然な感情すら「いけないこと」と考えてしまう心理。
誰にでも許される甘えすら、自分には選択肢として存在せず笑顔でいるしかないという悲しさである。
さらには
My heart can’t possibly break
私の心はどうしたって壊れない
When it wasn’t even whole to start with
無傷ですらなかったの そもそも最初から
単語は
- can’t possibly ~「どうしても~できない」
- even「さえ」
- to start with「はじめに」
「whole」という単語は
- (欠けた部分が一切ない)全部、全体
を意味する。
※「it」は前文の「My heart」を指していると考えた。
つまり「そもそも最初から心が欠けていた(両親の不仲を見て育ち、ボロボロだった)」ので
- 涙は流せない
- いつだって笑顔のフリ
- でも心はこれ以上壊れようもない
どんなに辛い状況でも、自分は大丈夫なんだ…と自身に言い聞かせるような内容である。
3番は
I watched you die
あなたが死ぬほど苦しむのを見ていた
I heard you cry every night in your sleep
泣き声が聞こえた 寝るときには毎晩
単語は
- watch 人 V「人がVするのを見る」
- heard 人 V「人がVするのを聞く」
である。
「die」は(母親の死を仄めかしつつも)文脈から「死ぬ」ではなく「死ぬほど苦しむ」と訳した。
I was so young
私はとても幼かったから
You should have known
Better than to lean on me
あなたは子供を頼らないくらいの分別はもつべきだった
単語は
- know better than to do「~しないくらいの分別をもつ」
- should have 過去分詞「~すべきだった」
- lean on「寄りかかる」
子どもの存在を無視して、ケンカをする両親はある意味
- 子どもに甘えている
というのは、誰でも考え至る点だろう。
幼い子供は親の庇護がないと生きていけず、それにどうしたって親に好かれたい。
だからこそ、MVで無邪気に自分が描いた絵を父親に渡す子供のように
- 無邪気に振舞う
- 何も気づかないふりをする
- 文句を言わずに静観する
といった行動をとる。
こういった幼い子供の心理に「寄りかかり」自ら感情の赴くままに行動する親の様は、偏に子供の哀しみを想像の視野に入れない自己都合の甘えでしかない。
You never thought of anyone else
決して誰のことも考えてなかったわね
You just saw your pain
ただ自分の痛みばかり見てた
And now I cry in the middle of the night
そして今 私は泣いてる 真夜中に
For the same damn thing
同じようなくだらないことで
単語は
- anyone else「他の人」
- pain「痛み」
自己中心で子供のことを顧みていなかった親を批判しつつ、自分もまた気づけば我慢していた涙を流し、同じ過ちに陥っているのではないかと自問している。
最後に
I don’t know how to let anyone else in
わからない どうやって他の誰かを受け入れたらいいの?
Because of you
あなたのせいで
I’m ashamed of my life
自分の人生が恥ずかしい
Because it’s empty
だって空っぽなの
Because of you
あなたのせいで
I am afraid
怯えているの
単語は
- be ashamed of「~を恥じる」
- empty「空っぽ」
人を受け入れることができない自分の人生は「空っぽ」でしかない。
この悟りすら、両親の離別から孤独というものの怖さを知っているからである。
- 怯えて
- 怖がって
- 勇気が出ない
「afraid」という感情は自分を安全圏へと追いやり、孤独にするが、その空しさをも悟らせる。
だからこそ、この感情の原因ともなる父親と母親のふたりに
Because of you
あなた達のせいで
Because of you
あなた達のおかげで
という言葉を添えるようにして、訳を終えた。
訳してみた感想
ということで今回の記事では
- Because Of You(ビコーズ・オブ・ユー)
を訳してみました。
「you」に関しては最初から複数形の「あなたたち(父親と母親)」で訳そうかとも悩みました。
が、歌詞の中で
- 時には父親へ
- 時には母親へ
と彼女の想いが交錯している可能性も含めて「あなた」と訳し、最後だけ「あなた達」としました。
この曲は
- 似たような経験
- 同じような心理状況
を抱いたことがある人じゃないと、共感するのが難しいかもしれません。
この曲を最終的に
- 親への感謝
を伝える曲として強調することも可能ですが、私はそうしたいとは思えませんでした。
この曲のテーマを、親からの解放と自立と物語的に捉えることも可能でしょう。
そして世間的に
- 親を憎む
というのは歓迎されない行為だとわかっていますが、現実において選択肢は子供にあります。
他人が「ハッピーエンド」を強制することは一切できません。
家庭で幸福と安堵を学ぶ子供がいるように、壮絶な地獄と苦しみを味わう子供も存在するのです。
許せないなら許す必要はない。
心を傷つけてまで「良い子」でいる必要はありません。
この曲はどう読んでも、私にはあまりに悲しいものに思えてなりませんでした。
しかし彼女は
- because of
という表現を通して「両親を一方的に責める」ことを回避し「今の自分があるのは両親のお陰なのだ」という両義的な思いをうまく表しています。
この視野の広さは讃えるべきものではありますが、しかし同時に痛みをも伴うからこそ
- 根底にある強い悲しみ
がこの曲の大部分を占めているのを無視することは難しいと感じました。
親を反面教師にする。
こんなに悲しい戒めは他にないのです。
できることなら「父親のような」「母親のような」人間になりたいと胸を張って言いたいのです。
でも、それができない。
ひたすら自分の感情をセーブしながら、感情の波にさらわれそうになる度に
- 自分もまた親のようになるのでは
という恐怖と罪悪に襲われながら涙をこらえて生きていく。
その強さや正しさを讃えられる度、どんどんと自分を追い詰めて誰にも甘えられなくなってしまうのではないでしょうか。
色々と書きましたが以前訳した「Stronger」も含めて
- ダイレクトな感情
が伝わってるくる良曲だなと感じました。