今回は、Elton John(エルトン・ジョン)の
- ダニエル(Daniel)
の歌詞を和訳します。
戦争帰りの憧れの兄ダニエルが、スペインに遠く旅立ってしまったのを嘆く弟の視点で描かれている別れの曲です。
ダニエルは盲目であり癒えない傷を抱えているという設定は、ベトナム戦争当時の帰還兵を想像させるものです。
この曲について作詞者のバーニー・トーピンは
僕らが作った曲の中で『最も誤解されている歌』
だと語っています。
歌詞は短くわかりやすいですが、深い内容だなと思いました。
以下、解説も含めてバーニー・トーピンのインタビューなども和訳していますので曲の意味を考察するうえでの参考にしてください。
Elton John(エルトン・ジョン)とは?
Elton John(エルトン・ジョン)は、イギリスのミュージシャン、シンガーソングライター。
1969年にソロ・デビューし、翌年1970年に『僕の歌は君の歌」でヒットする。
作曲は自身によるものだが、作詞に関してはデビュー以降バーニー・トーピンが担当している。
70年代の全盛期を追えて、80年代後半から90年代前半にかけては楽物依存症やアルコールで苦しむ日々を送っていた。
が、依存症を乗り越えて90年代後半には映画『ライオン・キング』のサントラなど多くの仕事で成功している。
グラミー賞は5回受賞、34回ノミネーションされている。
ダニエル(Daniel)という曲
ダニエル(Daniel)は、1972年に発表されたエルトン・ジョンの楽曲。1973年のアルバム『ピアニストを撃つな!』に収録されている。
作曲はエルトン・ジョン、作詞はバーニー・トーピンが務める。
トーピンは、当時ベトナム戦争に影響を受けて作詞を行った。
全米シングルチャートで2位、全英シングルチャートでは4位を記録した曲。
ダニエル(Daniel)の歌詞
Daniel is traveling tonight on a plane
I can see the red tail lights heading for Spain
And I can see Daniel waving goodbye
Oh it looks like Daniel, must be the clouds in my eyesThey say Spain is pretty though I've never been
And Daniel says it's the best place that he's ever seen
He should know, he's been there enough
Oh I miss Daniel, oh I miss him so much, ohDaniel my brother you are older than me
Do you still feel the pain of the scars that won't heal?
Your eyes have died but you see more than I
Daniel you're a star in the face of the skyOh Daniel my brother you are older than me
Do you still feel the pain of the scars that won't heal?
Your eyes have died but you see more than I
Daniel you're a star in the face of the skyDaniel is traveling tonight on a plane
And I can see the red tail lights heading for Spain
And I can see Daniel waving goodbye
Oh it looks like Daniel, it must be the clouds in my eyes
Oh God it looks like Daniel, must be the clouds in my eyesDaniel
ダニエル(Daniel)の歌詞和訳
ダニエルが今夜 飛行機に乗って旅立っていく
僕には見える 赤いテールランプがスペインの方角を照らして
ダニエルが サヨナラと手を振るのを
ああ 僕の目にはあの雲が ダニエルのように見えるんだ
*
僕は行ったことないけど スペインは美しい場所だと皆が言う
ダニエルも言うんだ 今までで一番素晴らしい場所だって
そう 彼は知ってるんだ そこに行ってから随分と経つから
ああ ダニエルが恋しい とても会いたいよ
*
ダニエル 僕の兄さん
あの治らない傷の痛みを 未だ抱えているのだろうか?
兄さんの目は何も映さない でも僕より多くのことが見えるんだ
ダニエル 兄さんは天空に浮かぶ星なんだよ
*
ダニエル 僕の兄さん
あの治らない傷の痛みを 未だ抱えているのだろうか?
兄さんの目は何も映さない でも僕より多くのことが見えるんだ
ダニエル 兄さんは天空に浮かぶ星なんだよ
*
ダニエルが今夜 飛行機に乗って旅立つんだ
僕は見た 赤いテールランプがスペインの方角を照らして
ダニエルが サヨナラと手を振るのを
ああ 僕の目にはあの雲が ダニエルのように見えたんだ
ダニエル
和訳のチェックポイント(単語・文法の解説)
以下、和訳のチェックポイントをまとめておく。
Daniel is traveling tonight on a plane
ダニエルが今夜 飛行機に乗って旅立っていく
I can see the red tail lights heading for Spain
僕には見える スペインに向かう赤いテールランプが
And I can see Daniel waving goodbye
ダニエルが サヨナラと手を振るのも
Oh it looks like Daniel, must be the clouds in my eyes
ああ 僕の目にはあの雲が ダニエルのように見えるんだ
単語は
- tail lights「テールランプ:(自動車・列車などの赤い尾灯)」
- head for「向かう」
- wave「振る」
- look like「~のように見える」
である。
今まさに飛行機は飛び立って、ダニエルを乗せた飛行機がスペインの方角に消えていく。
僕の目には遠くからでもダニエルがさよならと手を振るのが見える。
と述べた後で「look like」という表現から、実際は雲しか見えていない(=そこに手を振るダニエルを見たんだと信じるほどに、別れが悲しい)ということ。
また、この曲についてバーニー・トーピンは
“I’d seen this article in Time magazine on the Tet Offensive. And there was a sidebar next to it with a story about how many of the soldiers that were coming back from ‘Nam were these simple sort of down home country guys who were generally embarrassed by both the adulation and, depending on what part of the country you came from, the animosity that they were greeted by. For the most part, they just wanted to get back to a normal life, but found it hard, what with all the looky loos and the monkeys of war that they carried on their backs.
I just took it from there and wrote it from a younger brother’s perspective; made him disabled and wanting to get away. I made it Spain, basically, because it rhymes with plane."
私はタイム誌でテト構成攻勢に関する記事を読んでいました。その隣に側面記事があったんです。どれだけ多くのベトナム帰還兵がただの田舎者なのに、国のどの地域から来たかによって敬意と敵意の両方を向けられ当惑している、と。多くの場合、彼らは普通の生活に戻りたいだけでした。しかし、それは難しいと気づくのです。興味本位で見にくる人や、負担をのしかかけてくる戦争狂いのせいです。
私は単にそれを抜き出して、弟の視点から歌を書き下ろしただけです。彼を無力にし、逃げたいと思わせました。スペイン(Spain)にしたのは、主に飛行機(plain)と韻を踏ませるためです。
と語っている。
韻を踏む以外には、スペインを選んだ理由はなく単にベトナム帰還兵にとっての心休める逃げ場の象徴として描かれているということ。
They say Spain is pretty though I've never been
僕は行ったことないけど スペインは美しい場所だと皆が言う
And Daniel says it's the best place that he's ever seen
ダニエルも言うんだ 今までで一番素晴らしい場所だって
He should know, he's been there enough
そう 彼は知ってるんだ そこに行ってから随分と経つから
Oh I miss Daniel, oh I miss him so much, oh
ああ ダニエルが恋しい とても会いたいよ
単語は
- pretty「美しい、きれい」
- though「けれども」
- should「~はずだ」
である。
ダニエルが旅立った後、みんなは口々にスペインはいいところだと言っているし、ダニエルもそう言ってる。
「he's been there enough」は現在完了形なので、彼が旅立ってから時間が経過し今もまだそこに住んでいるということがわかる。
Daniel my brother you are older than me
ダニエル 僕の兄さん
Do you still feel the pain of the scars that won't heal?あの治らない傷の痛みを 未だ抱えているのだろうか?
Your eyes have died but you see more than I
兄さんの瞳は何も映さない でも僕より多くのことが見えるんだ
Daniel you're a star in the face of the sky
ダニエル 兄さんは天空に浮かぶ星なんだよ
単語は
- pain「痛み」
- scar「傷」
- heal「治る」
- more than「以上に」
- face of sky「天空」
ここで、ダニエルと歌詞の語り手との関係が明らかにされる。
ダニエルは未だに痛みを覚える癒えない傷をもち、視力も失っているとわかる。
ただ決して治らないという表現から身体的な傷の他
- 心的外傷によるPTSD
も想像できるだろう。
同様に「Your eyes have died」も盲目という身体的な外傷の他
- 精神的に深い傷を負う
- =瞳に何も映らずぼんやりしている
というPTSD患者の特徴を指しているとも読める。
そのうえで「 you see more than I」は知覚としての「見る」ではなく、自分よりもずっと多くの物事を理解する洞察や心の目をもっていると、兄を尊敬してやまない弟が信じているということ。
多くのことを経験して戦場から帰還した兄は、彼の憧れ(スター)であり尊敬の対象だとわかる。
ここから兄が恋しくて仕方ないという弟の心理。
そこには単にスペインへ行ってしまったというより「ずっと遠くの戦場にいて会えずやっと帰って来たのに」またいなくなってしまった、という虚しさがあると想像も膨らむ。
和訳した感想
ということで今回は、エルトン・ジョンの
- ダニエル(Daniel)
を和訳したうえで、解説してみました。
この歌詞の面白い点は、あくまで
- 弟の視点
から描かれているということです。
彼から見ると、ベトナムから帰って来た兄貴というのは憧れの対象(まさにスター)です。
ダニエルが抱えている傷も含めて、弟はそれを誇りに思っているし、また遠くに行かないでほしいと願っている。
でもダニエルの目線から見たらどうでしょうか?
地獄のような戦場を見て、ボロボロになってやっと自国に戻ってきた。
そして昔のような普通の生活を送りたいと願っている、でも(弟がキラキラと英雄に向けるような眼差しを向けるように)自分に対する周りの反応が変わってしまった。
Wikipediaには、バーニー・トーピンの
「これはベトナム戦争から帰還して故郷テキサスの小さな町に戻ってきた男の話なんだ。町の人々は彼が帰って来ると歓声を上げて迎え、あたかもヒーローの様に扱った。だけど彼はただ単純に家に帰り、元の農場で働きたかっただけで、出征する以前のような生活に戻ろうと・・・という内容さ。僕は戦争から帰還した人達を思いやる何かを書きたかったんだ。」
wikipediaより引用
という言葉も紹介されていますが、これはまさにダニエル視点の解説補足になります。
バーニー・トーピンはこれをあえてダニエルの視点で描かず、彼に焦がれてる弟の目線から曲にしている。
だからこそ、単に憧れの兄が旅立って悲しい弟の曲とだけ解釈されてしまうのですが、裏側にはベトナム帰還兵の苦悩を直接的に描かず、ただ美しい楽園に逃避行させたいというバーニー・トーピンの願いがある。
ちなみに本来は、最後の詞で詳しい説明があったのをエルトン・ジョンが曲に合わないと判断してカットしたそうです。
なのでより難解な歌詞になってしまいましたが、その分解釈の幅が広がる深い詞になったといえるかもしれませんね。
ちなみにサム・スミスの公式カバーもあります。